インタビュー記事


取材日:2021.12. 24(金)  

話し手:学校法人永原学園 

     西九州大学短期大学部 

      教授 牛丸 和人

 

【自己紹介】

 西九州大学短期大学部(幼児保育学科)に赴任して5年目を迎えます。臨床美術(クリニカル・アート)、及び発達段階に応じた造形(表現)教育を専門とし、高大連携、学社融合(地域連携)、国際理解(異文化理解)にも取り組んでいます。現在は、専門分野に関する授業や学生支援課副部長としての業務を行いながら、学内でのSDGsを推進するメンバーの一員として活動を推進しています。

 

教授 牛丸 和人様
教授 牛丸 和人様


― SDGsを知ることになったきっかけ、またSDGsを始めようとされたきっかけについて教えてください。

  

 言うまでもなく世界の共通語となったSDGsに対しては、テレビやネットでも盛んに広報されていますし、義務教育の段階から子ども達への啓発が始まっています。そのような中、社会に出ていく直前の大学生に対しても意識を高めさせることが急務と考え、2021年4月1日に「西九州大学短期大学部SDGs宣言」を行い、HPにも掲載しました。

 


― これまでのSDGsの取り組み状況、及び現在の活動状況について教えてください。

 特に独自の取り組み内容がございましたら教えてください。

(例えば、学年ごと・クラスごと・サークルごと・ゼミごとの取り組み内容)

  

 

(1) SDGs宣言

2021年4月1日に「西九州大学短期大学部SDGs宣言」を行いHP等で広報しました。

 

(2)SDGsに関する必修授業の開始

2021年4月より短期大学部1年生全員に対して「SDGs入門(前期)」「SDGsの実践(後期)」を必須授業としてスタートしました。

① 「SDGs入門(前期)」

基礎的な内容を担当教員がオンデマンドで配信し、レポートを提出させる形で進めました。

② 「SDGsの実践(後期)」

コロナ禍の中でもあり、対面の実践が難しいと判断し、県内のSDGsの実践を推進しているオーソリティーによるリアルタイムのオンライン講義を複数回行い、それを受けて短大生として実践すべきと思われることを、8班(16グループ)に分け、グループごとにオンデマンドでプレゼンする予定です。1グループは10名程度としました。

 

「SDGsの実践」の授業ではすでに以下のような活動のアイデアが学生から出されています。

ア.衣料品や学用品、教科書、食品等の学内シェア

  ※衣料品については昨年度より留学生に対して実施している。

イ.学生が制作したポスターによる学生への啓発

ウ.学生が制作したエコバックなどの学内外への配布

エ.高校生との協働実践(ペットボトルキャップ回収など)

オ.夏季休業を利用した、学外での活動(小・中・高校・企業・地域住民等とのプチイベント)

 

○講師一覧  ※講師はいろいろな分野の実践家をお招きしています。

【龍谷学園での取り組み】 

・龍谷学園SDGs推進担当教諭

中村 純一 氏

【バリアフリーのまちづくり】

・佐賀市役所 職員

内田 勝也 氏

【食廃棄物再利用推進】

・唐津市リサイクル業者代表

松原 嘉之 氏

【国際理解】

・日本青年会議所

  九州地区佐賀ブロック協議会

  地方創生実現グループ

  SDGs推進委員会 委員長

古賀 久達 氏

・国際弁護士      

堤 ゆうじ 氏

【貧困・格差】

・地球市民の会

大野 博之 氏

【ドローン活用で過疎化対策】 

・多久市まちづくり協議会

笹川 俊一  氏

 

 各現場で活躍されている方々とのオンライン授業は、大学教員が授業で伝えきれない、実践に基づいた非常に具体的で中身の濃い内容のものになりました。また、留学生も多く学ぶ本学の授業では、日本人学生と外国の学生が異なる視点でディスカッションを行えることも大きな利点です。留学生は日本語を話すことができますので、言葉の壁を越えて自由な意見交換ができます。その中で、日本人が当たり前だと思っていることが、実は他の国ではそうではないという気づきも生まれます。お互いに思い込みによる価値観を比較し改善し合っているようです。例えばゴミの分別の仕方ひとつとっても、文化による対応の違いがあることがわかりました。

 

 (3) 学生によるSDGsの実践①

学食における「料理に使われている肉」を留学生に知らせる取り組み

 

 短期大学部には多くの留学生がいて、学食を利用している人も少なくありません。そのような中、この取り組みのきっかけとなる出来事がありました。今年の5月のことです。ある留学生が幼児保育学科の学生に「この料理には豚肉は入っていますか?私は食べられないので教えてください。」と尋ねたのです。そこから宗教上の理由で豚肉や牛肉を食べられない留学生に対する学生たちの支援がスタートしました。教職員や栄養士にも相談し、写真にあるようなパネルを設置すると共に、毎週の献立表にもそれぞれの肉を表す色のついたマークをつけてもらうようになりました。小さな取り組みですが、これも大切なSDGsの実践だと捉えています。

 

 (4) 学生によるSDGsの実践②

学園内の教室や施設のプレートに英訳のテプラを貼る取り組み

 

 本学の建学の精神は「高度の知識を授け、人間性の高揚を図り、専門知識と応用技術をもって社会に貢献し、世界文化の向上と人類福祉に寄与する人物を養成する。」であり、グローバル、かつグローカルな視野で活躍できる人間の育成を目指して教育活動が展開されています。そのような中、学生の中から「プレートの表記が日本語だけというのはグローバルとは言えないのでは?」という声が上がりました。そこで、プレートを全て取り換えるのは費用面で問題がありましたので、テプラを使ってネームプレートに英語表記のシールを貼り付ける活動をスタートしました。日本語がまだまだ苦手な留学生にとっても英語表記は助かるという声も聞かれます。「NO one will be left behind」誰一人取り残さない学園のグローバルな環境整備に取り組んでいきます。

 

(5) 学生・教職員共同によるSDGsの実践③

ペットボトルキャップを集めてワクチンに代え、発展途上国へ送る取り組み

 

 本学では、神埼市にある新興グループ株式会社新興(本社は鹿児島市)とエコキャップ支援活動に取り組んでいます。学内でペットボトルキャップの回収を行い、その重量に応じた金額を「認定NPO 法人世界の子どもにワクチンを日本委員会(JCV)」へ寄付します。

 今年、学内で回収したペットボトルキャップ11㎏を10月13日に株式会社新興に持ち込み、ポリオワクチン約3人分を送ることができました。

 


― SDGsの取り組みを実施してみて良かった点や悪かった点について教えてください。

 また、これまでに実施したことに対しての評価はございますか?

 

① 良かった点

・学生のみならず、教職員のSDGsに対する関心が高まりました。

・授業を通して理念や、具体的な実践を学ぶことができました。

授業を通してグループごとにアンケート結果のデータを分析したり、それをもとに具体的な実践案等

をプレゼンしたりする能力が高まりました。

・学内でのSDGsに関する看板やポスター、学食での掲示やペットボトル回収場所ができたことによっ

て、確実にSDGsに対する意識や関心は高まってきています。

 

②課題

・コロナ禍であり、学生間や高校生、地域住民らと対面しての活動ができませんでした。

 昨年はほとんどがオンラインでの授業でしたが、今年(2021年)は、3分の2は対面で出来ている状況

です。これからもコロナの状況を見据えながら、オンラインと対面のハイブリッド型の授業をうまく

使い分けながら、出来ることから実践につなげていきたいと考えています。

 


― これから西九州大学短期大学部様として取り組んでいきたいSDGsの活動や目標について教えてください。

 また、何かSDGs取り組みに向けてスローガンはございますか?

 

 まずは授業の内容を工夫改善しながら、より主体的、協働的なSDGsに関する実践を広げていく必要があると考えています。例えばコロナの状況を見据えながら、夏季休業中を利用したワークショップやボランティア活動を展開したり、学生の手作りエコバックを高校生や地域に配布したりするような具体的な活動も工夫していきたいと考えています。

 また、高校生とSDGsの実践に係る情報交換等もオンラインの活用も含めて行っていきたいと考えています。小さな取り組みからのスタートではありますが、実践を持続しPDCAマネジメントサイクルによる評価と改善を図ることで17の目標の実現に近づいていけると信じています。

 


― 官(行政)や民(企業)と連携を行っていることはございますか?

 また、官や民にお願いしたいことはございますか?

 

(永原学園と連携を結んでいる団体とその内容)

・特定非営利活動法人地球市民の会とのSDGs教育推進に関する連携協定(R2.12.15)

 

(永原学園西九州大学短期大学部と連携を結んでいる団体とその内容)

・一般社団法人地域資源活用推進協会との包括的連携・協力(R3.7.20)

・一般社団法人地域資源活用推進協会とのインターンシップに関する覚書(R3.7.20)

・一般社団法人佐賀青年会議所との包括的連携・協力(R3.11.4)

・公益社団法人日本青年会議所九州地区佐賀ブロック協議会との包括的連携・協力(R3.11.4)

 

 様々なイベントに対して、短大にもお誘いをいただきたいですし、短大としても積極的に学外の活動に参画していきたいです。高大連携という視点では「龍谷学園」「佐賀学園」「佐賀清和学園」と連携をとり合いながら活動を展開していく予定です。また他の短大や大学等における実践についてもリサーチしながら、可能なことは当校でも取り入れていきたいと思っています。

 


― SDGs取り組みを他校(グループ内、県内または県外の他大学・高校・中学校・小学校)と共同で行ったり、連携したりしていることはありますか?また、今後予定はありますか?

 

 「龍谷学園」の実践については、龍谷学園の先生を講師としてお願いし、2回オンライン授業で紹介していただきました。今後の課題としては、まずは高大連携高校である「佐賀清和学園」や「佐賀学園」の高校生と学生共同でSDGsに取り組めるようなプログラムを考えていこうと計画しています。加えて、地域と協働した実践も行っていきたいです。地域と連携したボランティア活動については、連携協定を行った「佐賀青年会議所」と連携して進めることを提案していただいています。

 


― 佐賀SDGs官民連携フォーラムに期待することや、お願いしたいことはございますか?

 

 県内外の官民連携したSDGsの実践事例や、高校のSDGsの実践例、そして県内外の短大や大学の取り組み事例を具体的に紹介、広報していただければ参考にしていきたいです。

 


― SDGsに対してどのような中長期的な計画をお考えですか?

 

 小中高校生との連携や、地域の人達のつながり、企業さんとの具体的な対面活動をこれから計画的に進めていきたいと考えています。そのためには、まずは入学前の高校生がどの程度SDGsについて学習しているのかを知ることも必要だと考えています。

 また、長期的には学校の施設等を開放して学校内の中庭でSDGsに関するワークショップを開いたり、地域の方達が入りやすい環境を作ったりすることで、一緒にSDGsに取り組んでいくことが出来たらと思います。ただし、これらを実現するためには大学からだけのPRだけではなかなか難しいとおもわれます。官民がこれまで以上に連携し合いながら「継続的に実現可能な環境づくり」を行って行くことが今後は必要だと考えています。

 


― 最後に、これからのSDGsに期待されることはございますか?

 

 ひとくちにSDGsと言っても、17の目標や169のターゲットは多岐にわたっており、個人で実施可能なレベルもあれば国家や国家間、企業主導で推進しなければ実現不可能なものから、今日からでも個人で実践可能なものもあります。これまで日本人が大切にしてきた「もったいない(節約)」「ありがたい(感謝)」「おもやい(共同)」の気持ちは全てSDGsに通じる理念だということを改めて感じます。SDGsの取り組みが物質的なハード面だけでなく、精神的なソフト面双方で深まっていくことを期待します。 

 

以上

 

聞き手: 松尾 俊明