佐賀市下水浄化センターで発生する脱水汚泥を原料として肥料を製造し、流通・販売することで有効活用を図る目的で「佐賀市下水汚泥堆肥化事業」が立ち上げられました。この事業を推進するために佐賀市内外の民間企業が発起人となって平成21年に全国で初めての国土交通省補助事業によるDBO(Design Build Operate)方式を採用した特別目的会社(株)S&K佐賀(佐賀市西与賀町 以下 当社)が設立されました。
自然環境の保全や環境教育など、あらゆる面から持続可能な循環型社会づくりを目指される(株)S&K佐賀の鳥巣事業所長に現在の取り組み内容、SDGsとの関連、今後の予定についてお話を伺いました。
◆現在の取り組みについて
1.汚泥の肥料化による農水産業への貢献と廃棄物削減
私達市民が生活する上で必ず汚水や汚泥といった廃棄物が発生します。それをどういう形で再利用していくのか、全国の自治体も汚水・汚泥の有効活用を見直している状況の中、佐賀市では平成21年10月から下水汚泥の堆肥化事業に取り組んでおり、下水をバイオマスとして扱い、農市である佐賀市では安心安全な肥料の提供は農業の支援につながり、それによりおいしい「食」を生み出し、産業発展にも寄与し、街に活力を生み出しています。
肥料の販売先はほぼ佐賀市の一般家庭及び大規模農家さん達が中心です。1㎏/2円と安価なため、家庭菜園での利用の方々は直接袋を持参していただき、自分たちで袋詰めを行うことによって利用者同士が作物の生育が良くなった!糖度が上がった!収量が増加した!などと使用方法や効果などを話すコミュニケーションの場となっております。
(※大規模農家さんは各フレコン袋350㎏/800円、800㎏/1600円/要予約)
この肥料の製造過程は、下水汚泥を「YM菌」という特許微生物と混合し、90度以上の超高温好気性条件下で活発に微生物が働くことで、汚泥を発酵分解します。このYM菌による分解速度が速いため、発酵期間が短く出来ることや、悪臭の発生が低く抑えられるといった特徴があります。他にも付帯設備が少ないため、ランニングコストが低く抑えられるといったメリットもあります。
佐賀市としては、これまでこのような汚泥を焼却と外部への処分委託することで、処理費用がかかり、それに伴い運送費用もかかっていましたが、自前の敷地で堆肥化することで年間約5千万円の経費削減、500tのCO2削減を可能にしたといわれております。ちなみに10トンの汚泥からは約1トンの肥料が製造されますので、汚泥の減容化にも繋がり、大量の廃棄物の削減が可能になりました。
2.環境啓蒙活動の推進(設備公開、勉強会、研修・見学の受入)
当施設には、年間1,000人の方々が「水処理施設をみたい」、「発電施設をみたい」、「堆肥化施設を見たい」といったそれぞれの目的で視察に訪れます。皆さん、最先端の施設や、汚泥から肥料が出来上がる技術に驚かれています。また、3ヶ月に1度定期的に、NPO法人循環型環境・農業の会のご協力のもと、『農業勉強会』を実施しており、これから農業を始められる方、これから肥料を使われる方、継続して肥料を使われている方を対象に生産者の体験談(成功例・失敗例)を話すことでPR活動を行っています。毎回約70名程度の参加者が集まっていて、平成21年からスタートしていますので、10年以上定期的に続いています。
また、年2回「上下水道だより」といった広報誌を佐賀市上下水道局の方で発行されるにあたり、事前打ち合わせを実施し、肥料に関する説明等を掲載させていただいております。
3.BISTRO下水道
国交省が推進している『BISTRO下水道』という下水道資源を農作物の栽培等に有効利用し、農業等の生産性向上に貢献する取り組みがあります。そういう中で出来た野菜は「じゅんかん育ち」と命名されています。もちろん、当施設の肥料を使って育てられた野菜も「じゅんかん育ち」として販売されています。佐賀市はもちろん全国の他の自治体も一緒に『BISTRO下水道』というチームで野菜を作って、食してという形で広がりを増やしていきたいと思っています。
ちなみにこの下水道由来の肥料は佐賀市が地域循環No.1です。下水道由来の肥料は食のおいしさの源です。
4.その他
最近では小学生による社会科見学(SDGsの一環)も増えていて、一日がかりで水処理施設はじめ堆肥化施設などを見に来られるので、私達や市の職員の方々が説明に追われるような状況にもあります。
また、上述した通り、各自治体もあらゆる方向で汚水や汚泥の有効活用の見直しを行っており、具体的に検討段階に入った自治体には見に来ていただいたりすることが多いですね。
これら1~3のいずれの活動も民間だけではうまくいってないと思います。佐賀市、維持管理会社の市民に必要とされる愛される施設にすることだけを協働で考え、ともに提案し、最後まで見届けるという考えと共に一緒に取り組んできた結果だと思います。私達の使命は、これから先も堆肥化施設の安定管理、肥料の安定供給、ともに基本を大切に持続させることだと思います。
◆SDGsとの関連について
現在進めている事業をSDGsの各目標に当てはめてみると図のようになります。一つの目標だけではなく色んな目標に当てはまることが多く、現在行っている取り組みが既にSDGsの目標にマッチしていたと言えます。
私達の生活環境で発生する下水汚泥を堆肥化することで廃棄物を削減し、安心安全な肥料を提供することで農業支援を行い、それによりおいしい「食」を生み出し、産業発展にも寄与し、街に活力を生み出すことがSDGsへの貢献に繋がっています。
その他にも、地球温暖化防止、CO2削減、再生可能エネルギーによる発電等、地球環境の保全に役立つ事業等に対して、行政と一緒に取り組みSDGsに貢献しています。
◆今後の活動について
私達は下水をバイオマスと捉え、そこから肥料を作り、グループ会社である農業法人「和饗エコファーム㈱」が野菜やお米、お酒作りに取り組んでおります。また、共和化工㈱東京本社の近くにある和食豚しゃぶしゃぶの店「和饗」では、土にこだわった全国各地の自社栽培の野菜やお米、お酒を揃えております。全社員一丸となり、グループ内で6次産業まで取り組んでおります。
この下水道由来肥料は、昨今の肥料高騰の救世主となることを確信しております。今後もつくる責任をしっかり果たしてまいります。
◆これからのSDGsに期待したいこと
私達がやらなければいけないことは佐賀市で進めてきたことを隣の福岡県や長崎県等周りの自治体に伝えていくことで普及し、そういう志をもつ仲間たちが増えて広がって行くことを期待したいですね。
(ヒアリング実施日:2022年5月17日)
◆企業情報